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ある文筆家の生涯

何も持ち合わせのない人がありました

文明世界から吹いてくる

爛熟の鎌に刈り取られそうな稲もない…

田園帰還

草原の肌を鋼いろの音を立てながら

滑っていく電車を見た

琥珀の灯火を揺らめかせ

使い古されたオークの椅子に赤いベルベットが張られ

昇降式の窓硝子は緑がかった青にゆがんでいる…

ブーフーウー

どんぱっぱどんぱっぱ ばったもんのバッタ

ゆうくり風呂敷ふくらんだ

空気きいくう春ラッタ…

しるべ

つれない笑顔の標識は

いつでも誰かを誘っている

心底から来るため息と意識不明の野生の行く先を、図らずも導いている...

カラスと一緒に

帰ろう 

先割れスプーンの食卓へ 

アルマイト食器の樹海に沈む 

肉厚な牛乳瓶と揚げパンは 

美麗なセラミックへの反駁だ ...

ゴロネーゼ

赤い屋根から青と白 

羊の群れから宇宙がのぞく ...

僭越ながら

僭越ながら申し上げます

地動説などうそです

ほんとうは天が動いているのです...

余暇

森からこぼれる果実は何だ 

歩いてきた風が 朝霧にとける 

琥珀のかけら 

くだけた矢じり 

尽きぬおしゃべり 気球に乗って 

ふらふらよろめき 雲にぼよん 

南洋探査船

地平線がぐにゃりとまがる

それは海のはたらきが 片目をつぶったのだった...