くじら
無私のほとりにやってきて
なるほどそこには何もない
明滅する無数の星たちと
ことばの草原が静観するだけだ
上下左右も重力も
黒い無間立方に沈み
あらゆる物理現象が深い眠りにつく
くじらのなかには空があり
有史以前の思念さえも宿った鉱物が密やかに呼吸している
その息吹はどこか東洋風で
人間主義的な思想体系を拒絶している
ここでは動いていたものが止まり
止まっていたものが動き出す
動物は動物として振る舞えず
植物もまたおなじ運命をたどる
言葉を持つものは言葉を失い
沈黙から醒めたものは高らかに叫ぶ
生命のシャッフルはつつがなく
時代を飲み干し完成する
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