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ふんどし

ふんどし

私はいま、むぎむぎゆれる風船の上にいる

到底取り戻せないほど涙にぬれた赤い空と

途方もなく無味乾燥なコンクリートスラブの街並みと

この世のあらゆる真っ当をさえぎるために建てられたおんぼろテントの下

町のハヅレの奇妙なサーカスが開かれる

 

私はいま、とぼとぼまわる風船の上にいる

さあ、抒情と動乱に飢えた客を沸かせろ

勿体ぶった品格に撫でまわされた魂を投げ出せ

風船は先刻よりもひどく輪郭がくずれる

わずかばかりの良心を世界に差し出すわけでもなく

また持ち得る力だけで生き抜く才覚があるわけでもない

何らかがやかず

何らとどろかず

あの鱗雲を落としていった可憐なメダカも微笑まない

生命として

動物として

ことごとく凡庸な

何処を切り取っても特筆なき人間です

 

きょろきょろ動く数々の目玉は

どれひとつとっても決して交差しない視線を差し向けるが、そこはかとなくある一点を見つめている。

呼吸が、呼吸がはやくなる

ああ、私は私でいられるか

世人が希求する今日的な響きを放てるか

ラリルレロ ラリルレロ

おお、ヨシ大丈夫だ

母さん、僕は偉大なる没落を道端の見世物にできる男です

燕尾服を着たカブトムシがわざとらしく咳ばらいをした

「さあ、お立合い!」

 

緞帳が下りた

喉が渇いた

イロハニホヘト

帽子を置いた

ステッキを折った

エケセテネ

毛皮を脱いだ

金銀装飾を外した

ラリルレロ ロルロレロー

ジャケットを投げた

シャツを破った

靴を飛ばした

ズボンが裂けた

ワヲン 草々

白旗を上げた

株が下がった

サラバジンセイ ゴキゲンヨウ

ふんどしを下ろした

凱歌が揚がった

 

目を開けるのがこわいので

薄目の間からこぼれるフラッシュライトでしばらく日光浴していると

ある母性のような風が、干からびそうな脳みそをかすめたのでした

 

私を私として人間たらしめていたのは

人とは何ぞやとあらゆる空を汚した無為の日々か

この脱ぎ捨てられたいくばくかの布切れか

 

地面にぐたッと横たわり、稚拙に管巻くふんどしは

気高いけもののにおいがした

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