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田園帰還

田園帰還

草原の肌を鋼いろの音を立てながら

滑っていく電車を見た

琥珀の灯火を揺らめかせ

使い古されたオークの椅子に赤いベルベットが張られ

昇降式の窓硝子は緑がかった青にゆがんでいる

荷台にあふれる風呂敷と籐行李

ヘリンボーンの床板の車両中央部には太陽らしき寄木が組まれている

東の方角からやってきた三両編成のジュラルミン筐体

はがれたペンキの素面に

田園すれすれに浮かんだ

紅く汚れた月が映っている

 

骨で組まれた奇怪な体躯に炎かゼラチンに似た影がまとわりつく

達磨ストーブはぼんぼん盛る

都会を追われた神さまたちが

裸おどりや熱燗をちびちびやっている

ながい旅程の行く先は

言わばばけもの郷帰り

下りの列車の吊り革に安堵と後ろ髪がつかまっている

 

後方ヨシ 前方は雪原なり

電信柱の明かりがすくなくなるにつれて

方言開闢

影が浴衣にかわり 骨がテンジクネズミの毛につつまれて藍色の帯がしまる

 

帰ってきた

帰ってきた

サピエンスどもめ神を追い出すとはどういった了見だ

降りやまぬ雪が白樺の群生になぐりかかる

プラットホームに立ったばけものは立派に磨かれた前歯を楊枝でシーシーやりました

 

帰ってこない

おかしいな帰ってこない

おれが腹を満たしたあのまいにちは

どこどこどこどこ

日の出は間近である

いちめんが確かに真っ白になります

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