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ある文筆家の生涯

ある文筆家の生涯

何も持ち合わせのない人がありました

文明世界から吹いてくる

爛熟の鎌に刈り取られそうな稲もない

 

土中に眠る種ひとつ

やがてはやって来るとも限らぬ不確かな機会にもだえて

自分自身という決して逃れ得ない有償存在と

有りあまる自由のなかでしか生きられない

終身刑に処されている

 

絶対乾燥の無慈悲な熱線が降る白紙の上で

センチメンタリズムの湿度は蒸発する

自然発火した心象の森に延焼防止の措置は講じられない

 

おまえのずぼんのポケットに

真ん中から見事にひしゃげたペンがある

この右手がある日 変な穴にすぽりと吸い込まれて

無理矢理引き戻そうとしたときのものだ

 

仕方がないな忘れたか

微細な引力の溶け込んだインクでもって星雲をあつめ

まことの生命が脈動するけものの王国を築くのだ

ぼたりと落ちた黒点にアトラスを見出し

芸術の爆風によって積乱雲を解き放て

 

霊峰の清らかさにとばっちりを受けたゴミ山のてっぺんに

事尽きたペンをざっくと立てた

雲海にかすんだ正体は

積み上げられて天にそびえる詞の紙屑

そいつは卑しく不敵に笑う

廃棄物のいただきに立つ片翼の麒麟児だ

 

こめかみぐりぐり念力はなてば

五羽のカラスがカーと鳴く

幼少の頃からの権謀術数はくだけ散り

これにて私はご破算だ

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