レンズと爆竹
私は眼鏡をかけている
いつだって凸面硝子と窓枠だ
私は眼鏡をかけている
景色はぴかぴか嘘くさく
矯正を重ねてもますますぼやける
裸の目玉が目を閉じる
現実がぼやけりゃ思考もぼやける
放蕩息子の世迷言
ある時お医者にいきました
よく晴れた日の午後でした
「こんにちは。今日はどうされましたか。」
「こんにちは。どうも何と言うかぼやけるんですぜんぶが。おかしいんです。」
「そうですか、ではこれは?」
お医者は指で3を示しました
「ええと、2。いや違うか4かな。」
「ははァ、なるほどよくわかりました。」
診察室の時計が、ぼーんと1回鳴りました
「あなたは東洋発祥のアマノジャクという熱病におかされておられる。なに、すぐになおりますただの流行り風邪ですよ。」
「いや確かに2か4でしたよ。3では決してない」
「そらきた。病状もぴたりだ。あなたは見えているんです。何と粗雑でつむじ曲がりなアナキズムだ」
至って平凡 ときに奇怪なドクトリン
私が眼鏡をはずしたら
パステル絵具の深海に
私が眼鏡をはずしたら
世界が ありありと 巨大な爆発をとげるのだ
夕日を浴びて東に傾いだビルディングから
鳥たちが飛び立つ
ほんとうのものはきっと歪んでいるんです
狂いのない極めて精緻な実像は それならそれで虚構と言えよう
眼鏡をかけるということは
近代的な堕落さで 歪みを模倣することだ
それだから私は眼鏡をかける
しかしあれは確かに 2か4だった
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