たまたま

たまたま入った喫茶店で
がたつく西洋椅子に腰掛ける
砂利とほこりの煉瓦床
ぶっきらぼうにひび割れた硝子窓のなかに
たまたま青猫がぷりぷり通りすぎる
動きのおかしい発条式時計
針飛ぶヴァイナル セロニアス
たまたま居合わせた知人と取り留めもない話をし
たまたま机の脚にぶっつけた膝をさする
店内の客たちは他所行きの恰好でその日暮らしの会話に浸る
よくある景色を慈しんだりするも
たまたまだってのにそういった気になる
頼んでもいないのに
鮭のおむすびと沢庵が出てきた
それもきっとたまたまであって
私だって君だって
そういった数ミリのズレが生じれば
消えてなくなってしまうような怪奇の産物なのだ
かがやく偶像粉吹いた
あまりの必然性欠乏に堪らず咳き込む
果てを見ない伝統的感冒症状
ああたまたまたまごのサンドイッチもやって来た
散逸
彼らと彼女らは今日も道端ですれ違う
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