Q.とポルカボンのこと
マトハヅレではこれまでそれなりの数の装身具をつくってきましたが、それら全体をもってあらわしたい大きなテーマとして、「生きるということは、人間が住む外的世界(現実)と人間が描く内的世界(幻想)のふたつを生きるということ」というものがあります。
僕たちが人生において認識する世界というものは、人間社会だけにはとどまりません。それは世界のごく一部と考えられ、そのなかにだけ生き続けるならば、動物である人間は息切れがしてきます。水がないのに溺れる感覚におそわれることは、とてもつらいことです。
だけど人間には心の内に何らかの私的な世界をもっているものです。いまを生きるすべてのこどもたちと、おとなたちの内なるこどもは知っています。海や、森や、原っぱで深くしずかな呼吸をすれば、その世界は育まれ、変容し、拡大していく。自然は幻想を豊かに成熟させる最も重要なゆりかごと言えます。それがたとえ夢かまぼろしであっても、生みだした主の苦難をきっと救ってくれることでしょう。
このテーマを装身具で表現するためには、ふたつの異なる領域が必要です。
ひとつめは現実の領域「Q.」。
Q.は社会にあふれる数々の問いがなまえのもとになっています。我々はどこからきたのか、そしてどこへいくのか。何を食べる、何を着る、どこに住む。こんな学校、あんな仕事、どんな会社で生きていく。おんなのことおとこのこ。ひとりで、ふたりで、たくさんで暮らす。老いたひと、弱ったひと、こどもにまつわるエトセトラ。問いでふくらんだ風船が空を覆って陰になる。
それでもここで生きるんだ。どこかへ旅に出たあとも、帰ってくるのはここなんだ。僕のいつもの暮らしが、ドアの向こうでつっけんどんに待っている。
ふたつめは幻想の領域「ポルカボン」。
ポルカボンはとある土地のなまえです。
そこは見たこともない多様な草花と、人跡未踏の大森林に覆われた国土を有し、ひと際大きな月の光をはねかえす田園を、琥珀の燈火を揺らめかせながら走る鉄道と、星辰のかがやきとが人々の営為をやさしく照らしている。その姿はおそろしく、うつくしい。
けものも、にんげんも、虫もすべて同じ生命の骨格を持つ人獣交歓のせかい。幻想の霧の向こうにありながら、僕の心象のなかに実在するけものの王国です。
この8月より、マトハヅレに現れたふたつのライン「Q.」と「ポルカボン」。これからも時節ごとに展開が増えていく予定なので、みなさまどうぞよろしくお願いいたします。
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